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水戸地方裁判所 昭和60年(わ)514号・昭60年(わ)624号・昭62年(わ)65号 判決

右伊藤義克に対する強要、公正証書原本不実記載、同行使、常習賭博、恐喝、所得税法違反、土渕孝次郎に対する強要、公正証書原本不実記載、同行使、常習賭博、恐喝、坂本忠男に対する強要、恐喝、河野義郎に対する恐喝各被告事件について、当裁判所は、検察官杉山茂久出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一、被告人伊藤義克を懲役六年及び罰金一億三〇〇〇万円に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数中五〇〇日を右懲役刑に算入する。

同被告人において、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

二、被告人土渕孝次郎を懲役一年六月に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数中二八〇日を右刑に算入する。

同被告人に対し、この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

三、被告人坂本忠男を懲役一〇月に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数中、右刑期に満つるまでの分を、その刑に算入する。

四、被告人河野義郎を懲役一〇月に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数中二二〇日を右刑に算入する。

同被告人に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

五、訴訟費用中、証人宮内實及び同秋山武久に支給した分は被告人四名の、証人小森壮に支給した分は被告人伊藤義克、同土渕孝次郎及び同坂本忠男のそれぞれ連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人伊藤は、本籍地の高等学校を中途退学後、父親が博徒松葉会常磐連合会国井一家伊藤組組長であったことから同組構成員となり、昭和四七年ころ、父親の跡を継いで同一家二代目伊藤組組長となり、同五九年七月ころからは、同一家三代目総長に就任していた。被告人土渕は、中学校卒業後、工員、運転手、飲食店経営などの職を転々とし、同五七年六月ころからは、被告人伊藤が設立した東洋商事で金融業に従事していた。被告人坂本は、千葉県の高等学校を中途退学し、家業の農業に従事した後、同四五年ころから金融業を営んでいたが、覚せい剤取締法違反の罪などで数回服役し、同五八年一月ころ、被告人伊藤の配下組員となり、同五九年夏ころからは、同被告人の付き人をしていた。被告人河野は、尋常小学校を卒業し、農業や漁業に従事していたが、同四〇年ころからは、パチンコ店を経営していた。

第一強要、公正証書原本不実記載、同行使、恐喝事件

被告人伊藤は、昭和五四年ころ、顔見知りの大塚康男(以下単に大塚という。)から、保険代理業などを業とする平和商事株式会社(以下単に平和商事という。)を経営する秋山武久(以下単に秋山という。)を紹介され、その際、同人から、大塚が競輪・競馬による借金の返済に窮しているので、共同でスロットマシンゲーム店を経営し、その利益で同人を助けて欲しい旨の話を持ち掛けられ、秋山と共同で出資して右ゲーム店を開店し、大塚をしてその営業をさせ、その利益を右両名と三等分していたところ、その後、右ゲーム店に替えていわゆるポーカーゲーム喫茶店の経営を始めることにし、その際、それが右両名との共同経営である事実を秘匿するため、同五六年七月、同人らと共同で出資して株式会社ワールド通商(以下単にワールド通商という。)を設立し、その代表取締役に右スロットマシンゲーム店の従業員であった鈴木文男を据え、同社をしてポーカーゲーム喫茶店の営業をさせ、その利益を秋山、大塚と三等分していたが、同五八年一二月ころ、被告人伊藤の意向で大塚を共同経営から外し、以後秋山と利益を折半していた。また、被告人伊藤は、同五七年一〇月ころから、ポーカーゲーム喫茶店の内装工事等を請け負っていた宮内工務店を経営する宮内實(以下単に宮内という。)をして、新規に開店するポーカーゲーム喫茶店三店舗の右工事費等を負担させる代わりに、右三店舗分の利益を同人、秋山と三等分していた。そして、被告人伊藤、秋山、宮内は、ポーカーゲーム喫茶店の利益で別紙一覧表(以下単に別表という。)(一)ないし(四)記載の不動産を購入していた。すなわち、別表(一)記載の各土地(以下丸紅の土地という。)は、同五八年九月に、被告人伊藤、秋山及び宮内が、代金約一億二一五〇万円を均等に負担して丸紅株式会社から購入して共有し、税金対策上、同五九年三月二二日に宮内名義で所有権移転登記を経由したものであり、同表(二)記載の各土地(以下木崎の土地という。)は、同年九月ころに、右三名が、代金約三三九〇万円を均等に負担して野口英昭から購入して共有し、税金対策上、同月四日に宮内名義で所有権移転登記を経由したものであり、同表(三)1記載の土地(以下東京アイチの土地という。)は、同五八年二月に、被告人伊藤及び秋山が、競落代金一三三八万六〇〇〇円を均等に負担して競落して共有し、税金対策上、同年四月七日に秋山名義で所有権移転登記を経由したものであり、同表(三)2記載の土地(以下大竹一郎からの土地という。)は、同年二月ころに、被告人伊藤、秋山及び大塚が、代金約二一二二万五〇〇〇円を均等に負担して大竹一郎から購入して共有し、税金対策上、同月一八日にワールド通商の従業員であった宮岡敏明名義で所有権移転登記に代わる代替地配分台帳の名義変更を受け、右のとおり、同年一二月ころ、大塚をポーカーゲーム喫茶店の共同経営から外した際、同人の出資分を現金(被告人伊藤及び秋山の均等負担)で返済して清算し、以後は被告人伊藤及び秋山の共有しているものであり、同表(三)3ないし6記載の各土地及び同表(四)記載の建物(以下セントラル前の土地建物という。)は、同年四月に、被告人伊藤及び秋山が、競落代金一億三六五〇万円を均等に負担して競落して共有し、税金対策上、同月七日に被告人土渕名義で所有権移転登記を経由し、更に同月二〇日、被告人伊藤及び秋山の各持分を二分の一とする所有権移転請求権仮登記を経由したものであった。なお、東京アイチの土地及びセントラル前の土地建物については、いずれも秋山の負担分の半分を宮内が出資していたが、被告人伊藤はこの事実を知らず、また、宮内は、同人の出資分に相当する各持分の管理処分を秋山に任せていた。

また、被告人伊藤、同河野及び秋山は、パチンコ店を共同経営することを計画し、同五九年一一月、共同で出資して太平洋観光開発株式会社(以下単に太平洋観光開発という。)を設立し、秋山が代表取締役に就任し、同年一二月、千葉県香取郡東庄町にパチンコ店「チャレンジャー」を開店したが、右開店資金については、石岡信用金庫神栖支店から合計二億二〇〇〇万円の融資を受け、その際、丸紅の土地及びセントラル前の土地建物に根抵当権を設定し、右パチンコ店の建物を担保として提供したほか被告人伊藤、同土渕、同河野、秋山及び宮内が連帯保証人となった。被告人伊藤、同河野及び秋山は、右パチンコ店の売上金の中から右支店に対する債務を割賦返済するとともに利益を三等分していた。

ところで、被告人伊藤が、同六〇年一月ころから自宅の新築にとりかかっていたので、被告人坂本は、右新築の祝儀集めの賭博を開帳することとし、秋山及び宮内に対しても賭客として参加するよう要請したが、右両名は、その当日の同年三月二〇日ころ、一旦会場の伊藤組系義心会事務所に赴いたものの、賭博の開始直前に同所から逃げたので、被告人伊藤にその旨報告したところ、同被告人は立腹し、秋山及び宮内をポーカーゲーム喫茶店の共同経営から排除するとともに、右両名との前記不動産の共有関係も解消し、更に、秋山についてはパチンコ店「チャレンジャー」の共同経営からも排除することを決意し、そのころ、被告人坂本及び同土渕にその旨を伝え、被告人伊藤の指示を受けた被告人坂本は、同月二二日ころ、平和商事事務所において秋山に対し、「おやじは、今後一緒にやる気はないと言っている。とりあえず、ワールド通商から降りてもらう。それがおやじの意向だ。」と申し向けたところ、同人はこれを承諾し、また、被告人土渕は、同月二三日ころ、宮内に対し、鈴木文男を介して右同様のことを申し向けた。そして、同月二四日ころの夜、被告人河野方に被告人伊藤及び同土渕が集まり、被告人土渕が、同所から前記「チャレンジャー」にいた秋山に電話をかけ、「パチンコ店からも降りてもらうとおやじが言っている。今から行くから、そこで待っていろ。」と申し向けたところ、秋山は、身の危険を感じるとともに、このままでは共有不動産及び右パチンコ店の権利等を被告人伊藤らによって強制的に取り上げられることになると予感し、共有不動産の登記済証、代替地配分通知書、太平洋観光開発の銀行届出印等を持って東京都内に身を隠し、以後、ときどき同人の自宅や宮内に電話で連絡を取っていた。被告人伊藤は、共有不動産及び前記「チャレンジャー」関係の秋山の持分を一億四〇〇〇万円と評価し、右金額を支払うことにより同人を右共有関係及び共同経営関係から排除しようと考え、同月二六日ころ、宮内に対し、その旨を秋山に伝えるよう指示した。しかしながら、同月下旬ころ、被告人伊藤の右取引の提案に応じることを決意した秋山からその後の交渉を依頼された宮内から右取引の実行を求められた被告人伊藤は、秋山に面談することが右取引の前提条件だとして「秋山本人を連れて来い。」などと言ってこれに応じず、更に、そのころ、秋山が依頼した弁護士の白井久明から電話がかかり、面談を求められたが応じず、かえって、秋山が同被告人の前に姿を見せないまま弁護人を依頼したことに立腹し、また、同じころ、被告人河野からの説明で、前記「チャレンジャー」の営業許可が秋山の個人名義で下りており、名義変更が難しいことを知り、許可更新の都度秋山に協力を依頼する気になどなれないから、同店を閉店するしかないが、そうすると、石岡信用金庫に対する前記債務の返済が困難になると考え、秋山に対して一億四〇〇〇万円を支払う気をなくし、そのころ、被告人土渕、同坂本及び同河野らに対して、「パチンコ屋はつぶすしかない。秋山には一銭も払わない。」などと話していた。

一  被告人伊藤は、石岡信用金庫に対する前記債務の返済が滞り、抵当権が設定されている丸紅の土地及びセントラル前の土地建物が競売に付される場合に備え、自己が有利に競落するための方策として、右各土地に架空債権に基づく抵当権設定登記をしておくことにし、丸紅の土地については宮内の所有名義になっていたため、同人を脅迫するなどして、同被告人を権利者とする債権額一億二〇〇〇万円の架空債権に基づく抵当権設定登記及び停止条件付賃借権設定仮登記をし、かつ、その際、同じく宮内の所有名義になっいる木崎の土地についても債権額四〇〇〇万円の同様の抵当権設定登記及び停止条件付賃借権設定仮登記をしようと企て、昭和六〇年五月二二日ころ、被告人土渕に対し、その旨を伝えて被告人伊藤方に連れてくるように指示し、被告人伊藤、同土渕及び同坂本は共謀の上、同月二三日午前一〇時ころ、茨城県鹿島郡鹿島町大字平井一番地の六八の当時の被告人伊藤方において、同日午後二時ころまでの間、右被告人三名の面前で宮内に対し、同人が被告人伊藤から金員を借用している事実がないのに、被告人伊藤において、「丸紅の土地に一億二〇〇〇万円の抵当権をつけるから借用書を書け。木崎の土地にも四〇〇〇万円の抵当権をつけるから借用書を書け。てめえをぶっ潰すことなんか簡単なんだ。二、三年の懲役なんかおっかなくねえぞ。」などと、被告人坂本において、「おやじが言ってるのに何でできねえんだ、この野郎。おやじの話を受けろ。」などと怒号して脅迫し、金員借用証書の作成方を要求し、宮内をしてこの要求に応じなければ、同人の身体、財産等にいかなる危害を加えられるかも知れない旨畏怖させ、よって同人に、同月二八日、同県同郡鹿島町大字宮中二四〇番地のフランス料理店「エルモンテ」において、債権者を被告人伊藤、債務者を宮内とし、借用金額一億二〇〇〇万円及び同四〇〇〇万円とする虚偽の抵当権設定金員借用証書各一通を作成させ、もって宮内に義務なきことをおこなわしめ

二  被告人伊藤及び同土渕は、伊藤和男らと共謀のうえ、同月二九日、同県同郡鹿島町大字鉢形一五二七番地の水戸地方法務局鹿島出張所において、同出張所登記官高柳康司に対し、情を知らない司法書士山口重信を介して、前記虚偽の抵当権設定金員借用証書二通を真実に合致するもののように装い、その他の必要書類とともに提出して、丸紅の土地及び木崎の土地にそれぞれ債権額を前者については、一億二〇〇〇万円、後者については四〇〇〇万円とし、いずれも抵当権者を被告人伊藤、債務者を宮内とする抵当権設定登記及び権利者を同被告人とする停止条件付賃借権設定仮登記の申請をし、情を知らない同登記官をして同出張所備付けの丸紅の土地及び木崎の土地に係る各不動産登記簿の原本に、それぞれその旨不実の抵当権設定登記及び停止条件付賃借権設定仮登記の記載をさせ、即時にこれを同出張所に備え付けさせて行使し

三  その後の同年六月六日に発生した平和商事の事務所にトラックが突入して同事務所を損壊するなどした事件について、被告人伊藤が配下の者に命じてやらせたことである旨推察していた秋山が、かねて被告人河野に対する九五〇〇万円の貸付金の見返りとして同被告人振出、満期白地の額面合計九五〇〇万円の約束手形六通を受領していたことから、右手形を取立に回せば被告人河野が困り、同被告人のとりなしで被告人伊藤と円満に話合いができる可能性もあると考え、同月一〇日ころ右手形の満期に補充して取立てに回したところ、この事実を知って驚いた被告人河野から相談を受けた被告人伊藤は憤慨するとともに、秋山を恐喝して同人と共有している不動産の持分を取得することを決意し、同月一一日ころ、被告人河野に対し、「手形の件と併せて、俺の共有土地についても全部放棄させる線で秋山と話をつけるしかない。秋山がいないのなら、そのおやじに話をして秋山を連れ戻させるしかない。」などと話し、同月一六日ころ、秋山を連れ戻すべく、同被告人とともに秋山の父の秋山武雄方に赴き、同人に対し、秋山が勝手なことをし始めたなどという話をして圧力をかけ、その際の同人の反応から、その帰途、同被告人に対し、「これなら秋山が出てきそうだ。秋山が出てきたら全面降伏の線で話を進めろ。それ以外は話に応じない。」旨指示し、ここにおいて同被告人と秋山を恐喝して同人から共有持分を取得することを共謀し、その後、秋山武雄に説得されて同月一八日ころ自宅に戻った秋山が、同月二二日午後七時三〇分ころ、被告人伊藤との仲介を依頼するために同県同郡鹿島町大字宮中二三三三番地の五五の被告人河野方を訪れた際、同被告人において秋山に対し、「これ以上ごたついてもしようがないから早く話をつけた方がいい。おやじは全面降伏でなければ勘弁しないと言っている。共有土地もパチンコ屋の持分も全部放棄するという意味だ。俺も全面降伏でなければ話にのれない。」などと申し向けて被告人伊藤に対する共有持分の譲渡を要求した後、同被告人を電話で呼び寄せたところ、被告人河野方に向かう車中で被告人坂本に右事情を話してその旨共謀した被告人伊藤は、同日午後一〇時ころ、被告人坂本ともに被告人河野方に赴き、被告人伊藤、同坂本及び同河野の面前で秋山に対し、被告人坂本において、「てめえ、俺らのことをなめるんじゃねえぞ。この野郎。」などと被告人伊藤において、「世間では俺とお前の仲は絶対にこわれないと思っているかもしれないが、そうはいかねえんだ。」などと怒号するなどして脅迫し、更に、同月二四日昼過ぎころ、同県同郡鹿島町高天原一丁目六番九号の被告人伊藤の自宅の新築現場において、同被告人は被告人土渕に右事情を話してその旨共謀し、同日午後二時ころ、被告人伊藤、同土渕及び同河野は同県同郡神栖町神栖一丁目一三番二号の石岡信用金庫神栖支店に赴き、同所に秋山を呼び寄せたうえ、同日午後三時ころ、同支店応接室において、秋山に対し、共有不動産の所有権移転登記等に必要な登記済証券等の書類の交付を迫ったが、同人がこれに応じず、帰ろうとする姿勢を示したことから、被告人伊藤において秋山に対し、「大事な話をしているのに用事もくそもない。きちんと話を決めてゆけ。土地の書類はいつよこすんだ。俺を馬鹿にする気か。俺をなめているのか、この野郎。」などと怒号して脅迫して右書類の交付を要求し、秋山をして、もし右要求に応じなければ、その生命、身体、財産等いかなる危害を加えられるかも知れない旨畏怖させ、よって、同月二七日ころ、同県同郡神栖町神栖一丁目三番二六号の平和商事事務所において、被告人土渕が秋山から東京アイチの土地、大竹一郎からの土地及びセントラル前の土地建物の所有権移転登記等に必要な登記済証、白紙委任状等の交付を受け、いずれも被告人伊藤を実質上の所有者とする意図で、東京アイチの土地につき、同年七月三日、被告人伊藤の配下の片岡敏夫名義に所有権移転登記をし、大竹一郎からの土地につき、同月八日、茨城県鹿島用地事務所長からワールド通商名義で代替地配分台帳の名義変更を受け、もってこれらの土地を喝取し、同様の意図で、セントラル前の土地建物につき、同年六月二八日秋山の持分を二分の一とする所有権移転請求権仮登記を解除する旨の仮登記変更登記をし、もって同持分相当額の財産上不法の利益を得

たものである。

第二常習賭博事件

被告人伊藤は、第一記載のとおり、昭和五六年七月に秋山武久及び大塚康男と共同で出資してワールド通商を設立し、同社をしてポーカーゲーム喫茶店の営業をさせ、その利益を秋山及び大塚と分配し、一部の店舗については秋山及び宮内と利益を分配していたが、同被告人の意向で同五八年一二月ころ大塚を、同六〇年三月下旬ころ秋山及び宮内をポーカーゲーム喫茶店の共同経営から外し、以後は同被告人のみで、その経営をしていた。被告人土渕は、同五九年一二月ころから、被告人伊藤の指示により、ワールド通商の経営に関与することになり、毎月開催される右ゲーム喫茶店の店長会議に出席するなどして同社の業務を監督していた。同六〇年八月当時、ワールド通商の代表取締役は鈴木文男、営業部長は牧野一磨であり、同社を通じて、被告人伊藤が経営しているポーカーゲーム喫茶店のうち「神宮」の店長は宇田義雄、「ホワイトハウス」の店長は田中義一、「チャンピオン」の店長は遠藤正美であった。

被告人伊藤及び土渕は、鈴木文男、牧野一磨、宇田義雄、田中義一、遠藤正美らと共謀の上、常習として

一  昭和六〇年八月七日午後八時五〇分ころ、茨城県鹿島郡鹿島町大字鉢形一四七八番地の喫茶店「神宮」店内において、賭客の日向寺和男ほか八名を相手として

二  同年八月一六日午後七時五分ころ、同県同郡神栖町知手中央五丁目一一番二二号の喫茶店「ホワイトハウス」店内において、賭客の藤田元治ほか四名を相手方として

三  同年八月二五日午後三時ころ、同県行方郡潮来町大字辻三二八番地の喫茶店「チャンピオン」店内において、賭客の茅野光廣、冨永芳樹を相手方として

それぞれゴールデンポーカーと称する遊戯機械を使用し、金銭を賭けて、画面に表示されるトランプカードの種類、数字の組み合わせ等により、その得点を決めて勝負を争う方法の賭博をしたものである。

第三所得税法違反事件

被告人伊藤は、昭和五六年ころから、ポーカーゲーム機のリース業を営み、鹿島地区、行方地区の喫茶店等にポーカーゲーム機を入れ、数か月の間にリースする店舗数を飛躍的に増加させて多額の利益を上げ、更に、同被告人自身でポーカーゲーム喫茶店を経営することにし、同五七年七月ころから同五八年七月ころまでの間に「フルハウス」、同五四年ころ開店して同被告人経営のスロットマシンゲーム店の「一億会館」を改装してフランス料理のレストラン「エルモンテ」を隣りに合わせた「ラッキー」、被告人河野と共同経営の「プレイタウン二一世紀」、山澤義一と共同経営の「シュガーポット」とそれぞれ開店して利益を上げていた。また、被告人伊藤は、第一記載のとおり、同五六年七月に秋山武久及び大塚康男と共同で出資してワールド通商を設立し、同社をして同五九年一二月までの間にポーカーゲーム店合計九店舗の営業にあたらせ、その利益を右両名あるいは宮内實、被告人河野などと分配し、更に、同社をしてポーカーゲーム機のリース業を営ませ、その利益を秋山及び大塚と分配していたものである。

被告人伊藤は、右のとおり所得を得ていたものであるが、所得税を免れようと企て、売上の除外などの方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五八年三月一五日、茨城県行方郡潮来町大字延方字三カト前甲一三五八番地の潮来税務署において、同税務署長に対し、同五七年度分の実際所得金額が二億二一一四万九五七九円であったにもかかわらず、その所得金額が四一七万〇三二〇円で、これに対する所得税額が三一万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年度分の正規の所得税額一億五〇二九万四二〇〇円との差額一億四九九八万二二〇〇円を免れ

二  昭和五九年三月一五日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、同五八年度分の実際所得金額が四億一一二七万九七六二円であったにもかかわらず、その所得金額が四六二万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が三二万九二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年度分の正規の所得税額二億九二六二万一七〇〇円との差額二億九二二九万二五〇〇円を免れ

三  同六〇年三月一五日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、同五九年度分の実際所得金額が三億八七八四万〇一三八円であったにもかかわらず、その所得金額が四六二万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が二五万一九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年度分の正規の所得税額二億五七七四万二三〇〇円との差額二億五七四九万〇四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実について

一  被告人土渕孝次郎の検察官に対する昭和六〇年九月一六日付供述調書(四丁のもの)

一  被告人伊藤義克、同坂本忠男及び同河野義郎(昭和六〇年一〇月二一日付)の司法警察員に対する各供述調書

一  検察事務官作成の被告人坂本忠男の前科調書(甲)

判示第一の冒頭及び三の各事実について

一  被告人四名の当公判廷における供述

一  被人伊藤義克(昭和六〇年一〇月二八日付)、同土渕孝次郎(同月三〇日付)及び同河野義郎(同月二六日付)の検察官に対する各供述調書

一  第六ないし第九回各公判調書中の証人宮内實の供述部分

一  第一〇ないし第一三回各公判調書中の証人秋山武久の供述部分

一  第一五回公判調書中の証人平野貞夫の供述部分

一  秋山武久(昭和六〇年九月一三日付)及び白井久明の検察官に対する各供述調書

一  平野貞夫の司法警察員に対する供述調書

一  水戸地方法務局鹿島出張所登記官作成の不動産登記簿謄本七通

裁判第一の冒頭の事実について

一  被告人伊藤義克(昭和六〇年九月六日付、同月一一日付及び同年一一月五日付)、同坂本忠男(同年九月六日付、同月一四日付(一)及び同年一一月五日付)及び同河野義郎(同年一〇月二九日付及び同年一一月四日付(二))の検察官に対する各供述調書

一  被告人河野義郎の司法警察員に対する昭和六〇年九月六日付供述調書

一  大塚康男、秋山武久(昭和六〇年九月九日付、同年一〇月九日付一七丁もの、同月一四日付本文一五丁のもの及び同年一一月六日付二丁のもの)、宮内實(同年九月一〇日付一二丁のもの、同年一〇月一八日付及び同年一一月六日付)及び平野貞夫(同年一〇月一〇日付)の検察官に対する各供述調書

一  大塚康男の司法警察員に対する供述調書

一  司法警察員作成の昭和六〇年九月九日付捜査関係事項照会書謄本二通

一  水戸地方裁判所麻生支部長作成の書類送付書二通

判示第一の一及び二並びに第二の各事実について

一  第二回公判調書中の被告人伊藤義克及び同土渕孝次郎の各供述部分

判示第一の一及び二の各事実について

一  被告人伊藤義克(昭和六〇年九月一五日付及び同月一六日付)及び同土渕孝次郎(同月一六日付本文二丁のもの)の検察官に対する各供述調書

一  宮内實(昭和六〇年八月三〇日付)及び伊藤和男(二通)の検察官に対する各供述調書

一  浜田豊年の司法警察員に対する供述調書

一  司法警察員作成の昭和六〇年九月三日付及び同月一〇付各捜査報告書

一  水戸地方法務局鹿島出張所登記官作成の回答書

一  押収してある抵当権設定金員借用証書二通(昭和六一年押第四号の二及び三)

判示第一の一の事実について

一  第三回公判調査中の被告人坂本忠男の供述部分

一  被告人土渕孝次郎(昭和六〇年九月一四日付)及び同坂本忠男(同日付(二))の検察官に対する各供述調書

一  宮内實(昭和六〇年九月一〇日付本文五丁のもの)及び吉井芳雄の検察官に対する各供述調書

一  司法警察員作成の検証調書二通

一  司法警察員作成の昭和六〇年九月二日付捜査報告書

判示第一の三の事実について

一  第一四回公判調書中の被告人四名の各供述部分

一  被告人伊藤義克(昭和六〇年一一月六日付及び同月八日付)、同土渕孝次郎(同月二日付、同月四日付及び同月六日付)、同坂本忠男(同月九日付)及び同河野義郎(同月二日付二通、同月三日付三通及び同月四日付(一))の検察官に対する各供述調書

一  秋山武久(昭和六〇年九月二〇日付、同年一〇月九日付本文二二丁のもの、同月一四日付三丁のもの、同年一一月一日付及び同月六日付三丁のもの)、鈴木文男(同月二日付)、平野貞夫(同月一日付二通)、内田一男、山本三郎、宮内武之、秋山フミ子及び秋山武雄の検察官に対する各供述調書

一  松下光男、山口直樹及び高柳康司(昭和六〇年九月一一日付)の司法警察員に対する各供述調書

一  司法警察員作成の実況見分調書(謄本)、領置調書(昭和六〇年八月二三日付及び同年九月三〇日付)及び捜査報告書(同月二八日付)

一  司法巡査作成の捜査報告書

一  検察事務官作成の昭和六〇年一〇月一日付電話聴取書

一  押収してある不動産売買契約書一通(昭和六一年押第四号の四)、登記済権利証(茶封筒入り)一部(同押号の五)及び代替地配分通知書書換申請書綴(四枚)写し一綴(同押号の六)

判示第二の各事実について

一  被告人伊藤義克(昭和六〇年九月一八日付)及び同土渕孝次郎(同月一二日付及び同月一九日付)の検察官に対する各供述調書

一  宇田義雄、田中義一(謄本)、鈴木文男(昭和六〇年九月七日付、同月一二日付及び同月二六日付、各謄本)、牧野一磨(同月四日付、同月七日付及び同月二六日付、各謄本)、野村佐久男(二通、各謄本)、秋山武久(同月五日付)、宮内實(同年八月二九日付及び同年九月一〇日付本文七丁のもの)、平野貞夫(同月二四日付)及柴崎禎一の検察官に対する各供述調書

一  海老沢洋の司法検察員に対する供述調書

一  司法検察員作成の昭和六〇年八月七日付(作成者大山博行のもの、謄本)及び同年九月一二日各捜査報告書

判示第二の一の事実について

一  宇田義雄(二通)及び佐藤二三夫の検察官に対する各供述調書謄本

一  日向寺和男、林孝明、高橋義男、古達昭、中村安雄、宮川政士、田畑鉄男及び小林国男の司法警察員に対する各供述調書謄本

一  浅野宣雄の司法巡査に対する供述調書謄本

一  司法警察員作成の検証調書謄本(昭和六〇年八月一四日付)、捜索差押調書謄本(同月七日付二通)及び捜査報告書謄本(同月七日付作成者加瀬野耕三のもの及び同月一九日付)

判示第二の二の事実について

一  鈴木秀之の検察官に対する供述調書謄本三通

一  藤田元治、山崎栄、稲毛隆雄及び細野浩の司法警察員に対する各供述調書謄本

一  石山國高の司法巡査に対する供述調書

一  司法警察員作成の検証調書謄本(昭和六〇年八月二〇日付)、捜索差押調書謄本(同月一六日付二通)及び捜査報告書謄本(同月一六日付及び同月一九日付)

判示判事第二の三の事実について

一  茅野光廣、冨永芳樹、細野勇(二通)、金生谷正治(二通)及び遠藤正美(二通)の検察官に対する各供述調書謄本

一  鈴木文男(昭和六〇年九月一一日付)及び牧野一磨(同月一九日付)の司法警察員に対する各供述調書謄本

一  司法警察員作成の検証調書謄本(昭和六〇年八月三一日付)、捜索差押調書謄本(同月二五日付二通)及び捜査報告書謄本(同月二五日付)

判示第三の各事実について

一  第一七回公判調書中の被告人伊藤義克の供述部分

一  被告人伊藤義克の検察官に対する昭和六一年一二月一六日付、同六二年二月三日付、同月五日付、同月一〇日付、同月一二日付、同月一三日付、同月一四日付及び同月一六日付各供述調書

一  被告人土渕孝次郎(昭和六一年九月一一日付、同月一九日付、同月三〇日付及び同六二年二月一〇日付二通)及び同河野義郎(同月一四日付)の検察官に対する各供述調書

一  小松澤近、野村佐久男(三通)、内野紀悦(四通)、大竹敏松、新河彦治、野口よしの、渡辺実、燈中清文、秋山武久(二通、各謄本)、宮内實(三通、各謄本)、鈴木文男(昭和六二年一月八日付、同月九日付、同月一〇日付、同月一六日付二通、同年二月七日付、同月九日付及び同月一六日付)、牧野一磨、田口英男、杉野英雄、小堀正俊、国分博、永作泰喜、飯島章次、浅野幸男、伊藤玲子及び山澤義一の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官片桐賢紀作成の調査書三通

一  大蔵事務官大西利光作成のリース店経費調査書(昭和六一年五月一二日付)、利益分配収入調査書、共同店舗人件費等調査書、不動産所得調査書(同年六月四日付)、租税公課調査書、自動車関係費調査書、減価償却費調査書(二通)、繰延資産の償却額調査書、雑費調査書、開店時損失金調査書、支払利息調査書及び除却損調査書(同年五月二〇日付)

一  潮来税務署長作成の証明書

一  検察事務官作成の昭和六二年二月一〇日付電話聴取書

判示第三の一及び二の各事実について

一  大蔵事務官大西利光作成のリース店経営費調査書(昭和六一年一二月一五日付)及び直営店分(フルハウス店等)経費調査書

判示第三の一の事実について

一  大蔵事務官上野健司作成の修正損益計算書(自昭和五七年一月一日至同年一二月三一日のもの)、脱税額計算書(自同年一月一日至同年一二月三一日のもの)、昭和五七年分ゲーム収入金額調査書、直営店フルハウス経費金額調査書、直営店一億会館経費金額調査書及び昭和五七年分所得税査察更正決議書

一  大蔵事務官大西利光作成の昭和六一年一二月一七日付不動産所得調査書

判示第三の一及び三の各事実について

一  大蔵事務官大西利光作成の直営店分(ラッキー店)経費調査書、シュガーポット店経費調査書、プレイタウン二一世紀店経費調査書、総合課税の短期譲渡所得調査書、除却損調査書(昭和六一年一二月一九日付)及びエルモンテ勘定調査書(二通)

判示第三の二の事実について

一  大蔵事務官上野健司作成の修正損益計算書(自昭和五八年一月一日至同年一二月三一日のもの)、脱税額計算書(自同年一月一日至同年一二月三一日のもの)及び昭和五八年分所得税査察更正決議書

判示第三の三の事実について

一  大蔵事務官上野健司作成の修正損益計算書(自昭和五九年一月一日至同年一二月三一日のもの)、脱税額計算書(自同年一月一日至同年一二月三一日のもの)及び昭和五九年分所得税査察更正決議書

(事実認定についての補足説明)

被告人四名は、判示第一の三の事実(以下本件犯行という。)につき、第三回公判期日における公訴事実の認否の際にこれを否認し、その後の第一四回公判期日において右認否を変更してこれを認める旨陳述したものの、第一九回ないし第二二回の各公判期日に実施された各被告人質問の際には、いずれも実質的にこれを否認する趣旨の供述をしているので、以下この点につき補足説明する。

一  被告人四名は、判示第一の冒頭及び三の各事実に関する証拠として証拠の標目に挙示した検察官に対する各供述調書において、本件犯行に至る経過及び本件犯行の状況について、おおむね罪となるべき事実(判示第一の冒頭及び三)で認定したとおりの自白をしているところ、右各供述調書の任意性を疑うべき事情がなく、本件犯行に至る経過及び本件犯行の状況について具体的かつ詳細に述べられており、右各供述調書相互間においても、問題となるような供述の矛盾はなく、判示第一の冒頭及び三の各事実に関する証拠として証拠の標目に挙示した秋山武久、宮内實の各証言、右両名、平野貞夫及び白井久明の検察官に対する各供述調書をはじめとする他の関係証拠によって認められる客観的事実とおおむね符合し、問題となるような矛盾は認められず、その信用性は高いと認められる。

二1  これに対し、被告人四名の当公判廷における各供述を総合すると、その弁解の要旨は、おおむね次のとおりである。

(一) 被告人坂本は、昭和六〇年三月二二日ころ、被告人伊藤に対し、同被告人の自宅新築祝いの賭博を開帳しようとした際、会場まで来ていた秋山、宮内が無断で帰ってしまったことを報告するとともに、被告人伊藤に秋山らと被告人坂本らのどちらがかわいいのか、などと問いただした。これに対し、被告人伊藤は、「秋山とは同被告人が直接会って話をするから、被告人坂本らは秋山に何も言うな。」旨を答えたにすぎなかったのに、被告人坂本は、独自の判断で、そのころ、平和商事事務所へ赴き、ワールド通商から降りてもらいたいと被告人伊藤が言っている旨を秋山に伝えた。

(二) 同月二四日ころ、被告人河野宅に同伊藤、同土渕が集まり、同伊藤が、「秋山をワールド通商から降ろす代わりに、パチンコ店『チャレンジャー』の共同経営から同被告人が降りる。」旨の話をしたところ、被告人河野がこれに反対した。そして、右パチンコ店の件で秋山と話し合いをするため、被告人土渕が同河野宅から秋山に電話をかけたところ、右被告人らに右パチンコ店まで出てきてほしいと秋山が言っていたので、右被告人三名が同所へ赴いたところ、秋山は逃げていなかった。

(三) 秋山は、身を隠してからは、宮内と連絡をとっていたが、その際、同人に、「今出て言ったら不利になるから、今は出て行けない。」旨話しており、被告人伊藤らは、秋山が身を隠したのは同被告人を恐れたためではなく、同被告人との前記パチンコ店に関する交渉を少しでも自分に有利に運ぶためであると感じていた。そして、被告人伊藤は、前記パチンコ店の建物及び営業許可の名義を秋山個人から太平洋観光開発に移すことを条件に、秋山に一億四〇〇〇万円を支払って、前記パチンコ店の共同経営及び同人との土地共有関係を清算するべく、宮内を通じて秋山と交渉したが、同人は、前記パチンコ店を一人で経営したいと考えており、右名義変更の手続をしようとせず、被告人伊藤が、秋山に前記パチンコ店の経営を譲ると言い出すのを待っていた。そこで、被告人伊藤は、同年四月末ころ、前記パチンコ店をつぶすこともやむを得ないと考え、同店を開店するため石岡信用金庫神栖支店から融資を受ける際に担保として提供した土地が競売に付される場合に備え、右土地に架空債権に基づき、被告人伊藤を権利者とする抵当権設定登記等を経由した。その後、被告人伊藤は、秋山のことは忘れようと努めていた。

(四) その後の同年六月、秋山が被告人河野から受領していた額面合計九五〇〇万円の約束手形を取立てに回したため、同被告人から相談を受けた被告人伊藤は、秋山の父親である秋山武雄と話し合うことをすすめ、同人も被告人伊藤と話をしたいとのことであったので、同年六月一六日ころ、被告人河野とともに秋山武雄方に赴いた。同人方へ赴いたのは右手形の件について話し合うためであり、秋山が出てくるように、秋山武雄に圧力をかけるつもりはなく、同人方からの帰途、被告人伊藤が同河野に対し、秋山を全面降伏させろなどと指示したことはない。

(五) 同年六月二二日ころ、被告人河野方に来た秋山が同被告人に対して、「迷惑をかけたので前記パチンコ店及び共有不動産の持分をすべて放棄する。」旨申し出たので、同被告人は被告人伊藤が秋山が出てきたので来てほしい旨伝えた。そこで、被告人伊藤は同坂本とともに同河野方を訪れ、秋山に対して人生訓のような話だけをしたが、その際、脅迫的言辞は一切用いていない。ただ、被告人伊藤が、同河野方から帰る際、被告人坂本が秋山に対し「俺をなめるな。」などと大きい声を出した。

(六) 数日後、被告人伊藤は、同河野から秋山が右(五)のとおり自己の持分をすべて放棄すると言っている旨聞き、同月二四日ころ、石岡信用金庫神栖支店で秋山と合ったが、その際、被告人伊藤が前記パチンコ店の経営を秋山に譲ると言ったのに対し、同人はすべて放棄すると言ってこれを断った。その後、話を続けているうちに、被告人伊藤は、秋山の態度に腹が立ち、大声を出してしまった。

2  しかし、被告人らの右弁解は、次のとおり極めて不自然、不合理であって採用できない。

(一) まず、被告人らの弁解によると、被告人坂本が昭和六〇年三月二二日ころ、平和商事事務所へ行き、秋山に対し、被告人伊藤がワールド通商から降りてもらいたいと言っている旨を伝えたのは、同被告人の意向に反して被告人坂本が独自に行動したということになるが、被告人伊藤が暴力団国井一家の総長の地位にあるのに対して、被告人坂本は国井一家の構成員であって、被告人伊藤の付き人にすぎないことを考えると、被告人坂本が同伊藤の意向に反した行動をとるということは考えられず、被告人坂本の発言内容を併せ考えると、同被告人の右の行動は被告人伊藤の意向を受けたものと推認できる。

(二) また、被告人らの右答弁によると、秋山が同年三月下旬から身を隠したのは、被告人伊藤らと共同で経営していたパチンコ店「チャレンジャー」に関する同被告人との交渉を有利に運ぶためということになるが、秋山は当時、判示第一で認定したとおり保険代理業等を営む平和商事を経営するなど相当大きな規模の事業をしていたもので、そのような立場にある同人が、交渉を有利に運ぶためというような動機で事業の経営に重大な支障を来たすような自宅を離れて長期間にわたり身を隠すという方法をとるとは到底考えられず、同人が右のような行動に出たのは、判示のような身辺の危険を感じたためとしか考えられない。

(三) さらに、被告人らの弁解によれば、秋山は身を隠すまでして前記パチンコ店を一人占めにすることに固執していたことになるし、また、秋山が被告人伊藤を恐れる理由は何もないことになる。そうすると、秋山の方から進んで右パチンコ店及び共有不動産の持分をすべて放棄すると言い出したとの弁解は、不合理である。また、被告人らの弁解によれば、同年六月二四日ころ石岡信用金庫神栖支店で、被告人伊藤が秋山と会った際、同被告人が右パチンコ店の経営を秋山に譲ると言ったのに対し、利にさといはずの同人がこれを断ってすべて放棄する旨延べたというのであるが、これも右のような事情に照らし、極めて不自然不合理である。

三  以上説示したとおり、被告人四名の捜査段階における供述は信用性が高いと認められるのに対し、右被告人らの当公判廷における供述は信用できないから、判示第一の三の恐喝の事実を認定した次第である。

(累犯前科)

被告人坂本忠男は、(1)昭和五五年九月一六日山形地方裁判所米沢支部で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年四月に処せられ、同五七年一〇月三一日右刑の執行を受け終わり、(2)同五六年七月二〇日水戸地方裁判所土浦支部で覚せい剤取締法違反の罪により懲役六月に処せられ、同五八年二月七日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の同被告人の前科調書(甲)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人伊藤義克の判示第一の一の所為は刑法六〇条、二二三条一項に、判示第一の二の所為のうち各公正証書原本不実記載の点はいずれも刑法六〇条、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、各不実公正証書原本行使の点はいずれも刑法六〇条、一五八条一項、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第一の三の所為は包括して刑法六〇条、二四九条に、判示第二の所為は包括して同法六〇条、一八六条一項に、判示第三の一ないし三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、判示第三の一ないし三の各罪については情状により同法二三八条二項を適用し、判示第一の二の各公正証書原本不実記載及び各不実公正証書原本行使はいずれも一個の行為で二〇個の罪名に触れる場合であり、判示第一の二の各公正証書原本不実記載と各不実公正証書原本行使との間にはそれぞれ手段、結果の関係があるので、刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い別表(一)2の土地の抵当権設定登記についての不実公正証書原本行使罪の刑で処断することとし、各所定刑中判示第一の二の罪については懲役刑を、判示第三の一ないし三の各罪については情状によりいずれも懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第三の一ないし三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役六年及び罰金一億三〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

被告人土渕孝次郎の判示第一の一の所為は刑法六〇条、二二三条一項に、判示第一の二の所為のうち各公正証書原本不実記載の点はいずれも刑法六〇条、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、各不実公正証書原本行使の点はいずれも刑法六〇条、一五八条一項、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第一の三の所為は包括して刑法六〇条、二四九条に、判示第二の所為は包括して同法六〇条、一八六条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の二の各公正証書原本不実記載及び各不実公正証書原本行使はいずれも一個の行為で二〇個の罪名に触れる場合であり、判示第一の二の各公正証書原本不実記載と各不実公正証書原本行使との間にはそれぞれ手段、結果の関係があるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い別表(一)2の土地の抵当権設定登記についての不実公正証書原本行使罪の刑で処断することとし、判示第一の二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の三の罪の刑に決定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二八〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人坂本忠男の判示第一の一の所為は刑法六〇条、二二三条一項に、判示第一の三の所為は包括して同法六〇条、二四九条にそれぞれ該当するところ、いずれも再犯関係に立つ前記の各前科があるので判示第一の一及び三の各罪につきいずれも同法五六条一項、五七条によりそれぞれ再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中右刑期に満つるまでの分をその刑に算入することとする。

被告人河野義郎の判示第一の三の所為は包括して刑法六〇条、二四九条に該当するので、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二二〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。 被告人四名につき、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により主文第五項のとおり負担させることとする。

(量刑の事情)

本件は、被告人伊藤、同土渕及び同坂本が、被害者宮内實を脅迫して、被告人伊藤を債権者、宮内を債務者とする虚偽の抵当権設定金員借用証書二通を作成することを強要し、被告人伊藤及び同土渕が、他の者と共謀して右借用証書に基づき虚偽の申立てをし、宮内名義の土地に被告人伊藤を権利者とする不実の抵当権設定登記等を経由するなどし、更に、被告人四名が、被害者秋山武久を脅迫して、同人が被告人伊藤と共有していた不動産の一部につき、秋山の持分を被告人伊藤に譲渡させたという事案(判示第一の一ないし三の罪)、被告人伊藤及び同土渕が、他数名と共謀して、被告人伊藤が経営するポーカーゲーム喫茶店三店舗で、遊技機械を使用し、賭客を相手に常習として賭博をしたという事案(判示第二の罪)及び被告人伊藤が、昭和五七年度ないし同五九年度分の所得税のうち約六億九九七六万円余りを不正に免れたという事案(判示第三の罪)である。まず、強要及び恐喝の点についてみると、いずれも暴力団の威勢を背景として、執拗な脅迫をしたもので犯情は悪質であり、被害者である宮内及び秋山が受けた精神的打撃は大きいと推察される。特に、恐喝については、被害にかかる秋山の持分の時価相当額は、被告人伊藤らの供述を前提としても、一億円を優に超えており、結果もまた重大である。そして、被告人伊藤は、いずれの事件においても首謀者であって、自ら右被害者らの畏怖感を決定的なものにする言動をなすなどして犯行を主導し、中心的役割を果たしているうえ、強要及び恐喝の結果得られた有形無形の利益は実質的に同被告人に帰属し、その責任は他の被告人三名に比して極めて重大である。また、被告人土渕も、いずれの事件においてもその後の登記手続等を担当するなど重要な役割を果たしており、被告人河野も同伊藤の指示を受けて積極的に動くなどいずれもその責任は重大である。次に、常習賭博の点についてみると、ワールド通商という会社を設立してポーカーゲーム喫茶店を経営するなど組織的で大規模な犯行であり、ことに、被告人伊藤は、右ゲーム喫茶店の実質的経営者として極めて多額の違法な利益を上げていたもので、その一部が暴力団の活動資金になっていることをも考えると犯情は悪質で、その責任は最も重いというべきであり、被告人土渕も、ワールド通商の経営に関与し、右ゲーム喫茶店の売上金の管理をしていたもので、その責任を軽視することはできない。更に、所得税法違反の点についてみると、被告人伊藤は、脱税を長期間にわたり反覆継続していたばかりか、その額も合計七億円に近く、他に例をみないような大規模なものであり、犯情は極めて悪質である。くわえて、被告人伊藤は、いずれも実刑に処せられた前科三犯のほか賭博罪等による罰金前科二犯を有しており、暴力団組織の総長の地位にあることを考えると、再犯のおそれは高いといわざるを得ない。被告人土渕についても、同伊藤が設立した東洋商事で金融業に従事するほか同被告人の個人的財産の管理を任されるなど同被告人と強いつながりを有していること、被告人坂本についても、累犯前科を含む前科一〇犯を有しており、被告人伊藤の配下組員として常に同被告人と行動を共にしていることを考えると、被告人土渕、同坂本の両名の再犯のおそれも否定できない。以上の諸点に照らすと、被告人伊藤はもとより、他の被告人三名の刑事責任も重大である。

他方、被害者である秋山及び宮内は、ともに暴力団組織の総長である被告人伊藤と組んでポーカーゲーム喫茶店の経営という常習賭博を敢行し、違法な利益を得ていたところ、被告人伊藤との関係のもつれから強要及び恐喝の各事件が発生したものであって、本件強要、恐喝の各事件の対象となった不動産はいずれも右違法な利益によって取得されたものであること、右の各事件については、被告人伊藤と秋山及び宮内との間で示談が成立し、その条件が履行されており、右被害者らが被告人伊藤の寛大な処分を望む旨の上申書を提出していること、所得税法違反については、その後被告人伊藤が脱税額の一部である四億〇三五〇万円を納付していること、被告人四名はいずれも長期間身柄を拘束されていたことなど各被告人に有利な事情も認められるが、被告人伊藤については、これらを充分斟酌しても前記の諸点に照らすと主文程度の実刑はやむを得ないというべきであり、また、被告人坂本についても右のほか、被告人伊藤に追随して強要及び恐喝の犯行に加担したにすぎないことなどを同被告人の利益に斟酌しても、やはり主文程度の実刑はやむを得ないところである。これに対し、被告人土渕については、右のほか前科がないこと、被告人河野についても右のほか恐喝の犯行に関与したのみで、右の犯行は被告人伊藤に追随して加担したものにすぎないことなどの事情が認められるので、いずれも今回に限り特に刑の執行を猶予し、その自戒に期待するのが相当と認められるので、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹重誠夫 裁判官 中野信也 裁判官 中里智美)

別紙一覧表(一)

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別紙一覧表(二)

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別紙一覧表(三)

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別紙一覧表(四)

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